「生産者になって感じた驚きや発見を、みんなと一緒に楽しみたい」柿田 祥誉さん

藤沢市で化学肥料や農薬を使わない農業を営んでいる、「柿右衛門農園」。園主の柿田 祥誉(かきた よしたか)さんにお話をお聞きしました。
柿右衛門農園のホームページ

会社員のときよりも安心感があります

農業は楽しいですか?

柿田 楽しいです!忙しいけど(笑)。楽しいと感じる瞬間はたくさんありますよ。おいしい野菜ができたとき、自家採種して育てた野菜が収穫できたとき、お客様がおいしい!といってくれたとき。

野菜を育てて、お客様に届けて、おいしく食べてもらえて…、そういうサイクル。循環という言葉で表現することが一番しっくりくるでしょうか。循環していることを実感する、それが楽しいですね。

会社員時代とは仕事が変わったこと以上に変化があったようですね

柿田 なにより、生活が豊かになりました。豊かになったと実感できるようになった。地域、近所の人にはもちろんお世話になっていますが、お客様の中にもお惣菜を持ってきてくれる人がいるんです。頂きものが増えました(笑)。ときには野菜と物々交換したり。いろいろな人とのつながりが増えて、困ったときに相談に乗ってくれる人や助けてくれる人がたくさんいます。

お金に換算できない価値を感じる。これは、生活が豊かになった証。会社員時代の価値観では定義できないような、新しい価値観や関係性といえばいいのかな。例えば、お客様でもあり、助けてくれる友人でもある人もいます。そういう関係性はいままでの生活ではなかったものです。

心配ごとが増えたとかはないですか

柿田 会社員のときよりも、安心感があるんです(笑)。会社で働いているときは、仕事を辞めたら生きていけないなぁと思っていた。いまは、お米と野菜があれば生きていけると思っている。

働いているときは毎月決まった給料をいただく。しかし、入ってくる金額には上限がある。それを減らさない工夫をしながらの生活。いまは、入ってくる額は少なくなったかもしれませんが、循環して回っている感覚なんですよね。減っていくだけ、という感覚ではなく、うまく回していけばなんとかなるという感じ。「減らさない」と「回していく」という違いですが、これは生活していく上で、とても大きな違いを生む要素だと思います。

自分たちの力でなんとかなる部分が多いからでしょうか

柿田 まずは、自分たちの力でできることを増やしたい。昔ながらの生産者の方はなんでも作れるんですよ。野菜の栽培だけなく、ちょっとした道具や小屋とかの大工仕事もこなします。そういうのに憧れがあります。買って手にするのではなく、自分で作ってみる。作れる技術があれば、なにかあったときに自分の力で対応できる。そういう基本的な部分はきちんとやれるようになっていきたい。

あとは、自給自足。食べるものに関してはなんとかなる状況が理想。お米作り震災をきっかけに始めました。お金があってもお米を買えない状況もありえます。食べるものには困らない、食べていけるという安心感は、生きるための根本的な部分。おいしい野菜やお米が食べられて、家族が元気で生活できる。これが家族にとっての一番の豊かさだと思います。

自分でやれることを増やすこと、自給自足も、農業というよりはライフワークとしてのテーマですね。生きていく上で実現していきたいこと。それが結局は、自分にとっての農業、ということになるのかな。

いつかは就農、と考えていたのですか?

柿田 まったく考えていなかった。妻が農業関連のイベントに参加していて、そこに一緒に行くようになって農業に興味を持つように。いろいろ調べていくうちに藤沢の相原農場さんのことを知りました。妻が月に一度程度、援農に行くようになりました。

藤沢にきたのは、相原農場さんも近く、「半農半Xという生き方」という本を読んで、こういう暮らしがいいなと思っていたから。働きながら農業もできる環境を探していたら、藤沢がぴったりだと考えました。

いま振り返ってみれば、就農したのは妻の影響が大きいですね。野菜作りにどんどん興味が出てきて、「半農半X」ではなく、生業として農業を本格的にやろうか、どうしようかと悩んでいました。

結婚したからには家族に迷惑をかけたくなったので、なかなか会社を辞める決心がつきませんでしたが、妻の「やっちゃいなよ」の一言で就農を決めたようなものですね。(笑)2013年より相原農場さんで本格的な研修を受けることになりました。

就農当初、大変だったと思います

柿田 最初から農業だけでは生活できないので、アルバイトもしていました。妻も働いていたので、妻に支えられながらなんとか暮らしていた。3年くらいはこういう状況でしたが、昨年が転機の年になった。

お客様も増えてきて、それに見合った生産量を確保しなければならないので、とても忙しくて、大変な1年でした(笑)。いまは、ようやく安心して農業で生活していける状態になってきた。



自分が体験した感動をお客様と共有したい

農作業はお一人でされていると聞きました

柿田 妻には収穫のとき少し手伝ってもらう程度です。一人作業が大変なのは、トンネル張りなどの長い資材を扱う作業のとき。畝の長さが30Mとそこそこ長いので、何往復もしながら作業をします。二人でなら半分の時間で終わるところです。

田んぼの稲刈、脱穀は一人では無理 とても大変な作業なので、知り合い、ボランティアの人を集ってお手伝いしてもらっています。稲刈りは天候によって作業できる日がかわるので、1週間前くらい前にこの日にやります、ってお願いをしてタイミングがあった人がきてくれるので、とてもありがたい。

お客様とのやりとりは基本的に妻の担当。販売時はもちろん、メールや電話のやりとりをお任せしているので、畑仕事に集中できています。

奥様とのチームで成り立っている部分もある

柿田 やはり、生産面だけで農園は成立しない。生産と販売のバランスが大事です。例えば、夏にたくさんの野菜が収穫できたとしても、適切なタイミングですべての野菜を販売できる販路が必要です。

多少、売れない野菜が出てしまったとしても、せっかく育てた野菜をお客様に食べていただきたいという思いもあります。そのためには、生産力に見合った販売力が必要。僕と妻とで役割分担して、バランスのとれたチームとして進化させていきたいですね。

野菜栽培での苦労は

柿田 例えば、きゅうりの成長が芳しくない年もありました。草の管理がうまくいってなかったため、充分な日光があたっていなかった。あとは、農業雑誌にきゅうりに米ぬかを撒くと病気が減るという記事を鵜呑みして米糠をたくさん蒔いてしまったんです。しかも、梅雨時に。その結果、きゅうりが全く採れない状況になりました。

菌に詳しい方と話す機会があり、きゅうりの事を話をしたら、「もともと、米糠には糸状菌系のカビがついていて、水分が加わると爆発的に菌が増え、糸状菌類のカビで病気になる」と教えて頂きました。

こういうことを頭の中に入れ、同時にメモする。メモはこまめに取ってます。そこからなぜトラブルが発生したのかを調べたり、本も読みますが、栽培のうまい人に聞くこともあります。これが一番良い解決方法だと思います。

あと、最近は、SNSを使えば地域の先輩だけでなく、全国の生産者とつながり。写真付きで状況を説明すると丁寧に教えていただけるので、とても助かりますよね。それをもとに自分なりに工夫して試してみる。すると次の年はうまくいく。他の人の智慧をお借りして、自分なりの工夫を施す。それの繰り返しですね。

他に大事にしていることはありますか

柿田 地域の人とのコミュニケーション、それと農作業をきちんとやること。農業は一人でやるというイメージが強いと思いますが、そうではありません。会社員時代よりも気配りはしているかも(笑)。

周りの生産者の方に迷惑をかけないようにする。草刈りも手を抜かないできちんとやる。基本的なことですが、周りの人はそういうところをちゃんと見てくれます。

だから困ったときには助けてくれる、声をかけてくれる。消防団のような地域の活動、自治会にも参加するとか、住民としての活動も大事。農業は一人で完結できるものではないという意味は、こういうところにもあるんです。

これからやっていきたいことは

柿田 自分自身が生産者になったことで、初めて知ることや感動することがある。この感動をお客様と共有したいんです。スーパーに並んでいる野菜は、規格を満たした野菜。しかし「規格外」の野菜も食べたらおいしい。一般的に大きいきゅうりは美味しくないと言われますが、食べ方によって味は変わります。

今まで食べられない思っている物が食べられて、しかも、美味しい!これも豊かさのひとつですよね。調理したことがない野菜、カタチが揃っていない野菜は買わないとか、そういう壁を崩したい。「農業の現場と食が離れすぎている」という危機感を強くもっています。

大げさかもしれませんが、既成概念を崩すきっかけになるような体験ができる農園にしたいんです。野菜が育ってる畑に足を踏み入れ、そこで育っている見たことない規格外の野菜や市場では出回らない野菜の花を食べてみる、ひとつの野菜をいろんな料理法、食べ方で食べてみるとか、ちょっとしたことから変わっていけると信じています。

お話をしている雰囲気からも「農業が楽しい」という感じが溢れていました。もちろん、苦労されていることもたくさんあると思いますが、それよりも幸せなことの方が大きいことが伝わってきて、育てている野菜や周囲の人にも伝わっているんだろうなぁと感じました。
取材:2018年08月06日 堀尾タモツ

柿右衛門農園
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