相原 成行(あいはら しげゆき)さんに有機農業についてお話をお聞きするシリーズ第4回。
相原農場のホームページ
地域との連携はとても重要なんですね
相原 土地を預かっているので、地域を抜きして農業は語れません。その地域あっての農業です。地域との関係がなくては成り立たない。地域の人とは、お互いの職業はバラバラでも若い時に同じ消防団に所属したりしています。そこで苦楽をともにした仲間であれば、自然とつながりも強く深くなっていく。
いかにして地域の中で生きていくのか、ということがとても大切なことです。農作業が忙しい時期であっても、地域のボランティア活動を優先することも多くあります。
堆肥、土など、畑の中だけでなく、外にも大事なことがあるのですね
相原 何年たっても畑は畑として、野菜を生産できる使い方をして環境を守っていきたい。そのためには、地域の人たちに「畑は必要なもの」と思われる場所になること。
地域の人たちが、畑を必要としない考えになってしまったら、開発も進んで農地がなくなっていくかもしれない。そうならないようにするには、まずは野菜をしっかり作ることですね。
そして、畑の状態、環境もしっかり守ること。草がよいからといって放置したような状態ではなく、きちんとした考えのもとに管理していることが、見た目にもわかる状態にしておく。
さらに、自分たちの考えていることや思いを発信して伝えていくこと。どれも簡単にはできないことですが、時間をかけて理解を深めてもらうことが大事だと思っています。
いつから、そう考えるようになったのですか?
相原 相原農場に生まれてきたときから、でしょうか(笑)。自分自身の基本には「農地は預かりものである」という思いがあります。決して農地は個人の所有物ではない。他の農家さんがどう考えているかはわかりませんし、正解・不正解があることでもない。
ただ、農地は自分が生きている間は責任を持って管理できますが、いつかは誰かに受け継いでいくものだと思っています。
人間が生きていく根本にあるのが農業です。だからこそ、農業という仕事は誰にとっても必要なものなのです。
相原さんの考えていることと、実践していることにブレがないですね
相原 基本的なことをやっているだけです(笑)。別の言い方をすればいろんなことにチャレンジする能力がないだけです(笑)。それしかできない、ということがあるからブレないのかもしれないです。
新規就農で入ってくる人たちは、自分にはない、いろいろな能力や応用できる力を持っている人が多いです。
基本の軸があっての応用力、ですよね
相原 研修生に何が一番良かったかと聞くと、心の部分を学ぶことができた、と。そこさえしっかりしていれば、応用も効くということでしょうか。農業が他の仕事と一番違うのは、生きものを相手にするということです。
命あるものから教えてもらっています。それが農家にとっては、一番の先生です。常に先生と接している状態ともいえる。いろいろなことを観察し、体験して経験値をあげていく。物事を観察する目や経験が無ければ、機械や道具を使いこなせない。
どれだけ効率が良い機械や道具が生まれたとしても、手作業に勝るものは無いということもある。その一方で、経験に頼りすぎて調子に乗ると、必ずしっぺ返しがきます(笑)。一回うまくいっただけで、すべてわかったような行動に出ると痛い目にあう。
天候も毎年違うし、その他の条件も変わります。そうした環境下で毎年同じように生産、収穫することができるか。経験を積めば予測はできるようになり、予測をもとに先回りして工夫できるようになる。しかし、それが必ず当たるとは限らないのが農業なのです。
多種類の野菜作り、複数の畑での生産など、生産計画や畑の運用などはどのように?
相原 すべて頭の中ですね(笑)。以前にすべて書き出してみようと思ったのですが書ききれなくてあきらめました。野菜を基軸にした計画もあれば、畑を基軸にした計画もあります。それらを組みたてて、全体に展開してきます。計画書ではなく、頭の中でしか組み立てられなかったという感じですね。
もともと物事を整理したりまとめたりすることが苦手ということもあるかもしれません(笑)。仮に整理した状態にできたとしても、作業の直前で計画を変更することも多いと思います。
畑に行くまではこの作業をやろうと思っていても、畑についた瞬間に作業内容を変えることがあるのです。それは体と畑がシンクロしているといえばいいのか。経験からくるものがあるのでしょうね。
計画・管理よりも直感が大事?
相原 自分の考えでやっているというよりも、やらせてもらっているという感覚に近い。だから、畑についた瞬間に作業内容を変えたりするのが当たり前になっているんだと思います。
もちろん自分がやろうという気持ちがなければ行動には結びつきませんが、それだけではなく、やらせてもらっているという感覚が同時にある感じですね。いつの頃からか、自然とそういう意識になっていました。この感覚も「畑は個人だけのものではない」という考えに、つながっていると思います。
その感覚、考えの影響はどこからくるんでしょうね
相原 両親の影響が一番大きいでしょうね。この地域に生まれて、この地域の風習や人間性などに影響を受けていると思います。
有機農業に対する考えにもつながっている
相原 有機農業はいろいろあり、身の回りの資源を有効に使うというひとつの考え方がある。その一方、JAS法で定められている資材を使い、土壌分析をして成分を調整し野菜作りをするスタイルもある。
どちらのやり方が良い・悪いのという話ではありません。資材を使った有機農業は資材ありきのやり方。自分自身の有機農業のやり方として根本にあるのは、身の回りにあるものいかにじょうずに使って、毎年変わらない野菜をつくることができるか。
この考えは、両親から受け継いだものです。父も母も、この世の中から化学肥料も農薬も無くなった、という思いで有機農業を始めました。ないものとして考え、使えない・使わない前提で実践してくしかない。
どんなにうまくいかなくても、あるもので工夫してやる。どんな状況になったとしても継続できる農業。相原農場が目指している有機農業のカタチで、これからも変わることはありません。