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「みんなが心地よい、自然の循環を作りたい」中越 節生さん

藤沢八O八自然農園の園主であり、小田急江ノ島線善行駅 駅前直売所八○八の経営者でもある、中越 節生(なかごし せつお)さんにお話をお聞きしました。
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くるものを受けて、回してきた結果

生産者、経営者、などいろいろな面を持たれていますね

中越 名刺の肩書は、株式会社八○八(やおや) 代表取締役です。今年の4月に株式会社化しました。事業のスタートは野菜作りです。農園を続けていく中、農業に対するリスクを回避するためにお店を始めました。

飲食店なら栽培した野菜を提供することもできし、藤沢野菜、地産地消活動を広める活動の拠点にもなる。いまでは新規就農者のサポート、相談窓口にもなっています。

いろいろなことがつながっているんですね

中越 ひとことで表現すると、「みんが心地よい自然の循環」。普段の生活はもちろん農業においても、いろいろなことがつながっていく、回す仕組みを考えています。いまの社会は、たくさんのモノを消費し、売上げなどの数値をひたすら上げていくことが求められる。つまり、どんどん上を目指す生き方です。

でも、これがずっと続くと人は疲弊する一方。僕は上を目指すのではなく、回る。回転している地球の上で生活しているのだから、それに逆らわずに回る。いろいろなものを回して生きていく。つまり、循環が僕の生き方なんです。

回してきた結果、いろいろなことに取り組んでいる

中越 これを自分でやりたい、という考え方はありません。なにかのきっかけで、自分のところにまわってくる。周囲の人を巻き込んで一緒にやる。循環を意識して行動しているだけなんですよね。

例えば、お店の入り口で直売している野菜は僕が育てたものではなく、無農薬栽培仲間の野菜を買い取って直売しています。買い取ることが、彼らのサポートにもなり、お店への集客につながっています。これも循環の流れのひとつ。

自身の野望や目標があってやっていないからできること。欲がないから(笑)。大切なのは、循環できるかどうか。こうした仕組みも含めて新しい農業のスタイルだと思っています。

新しい農業スタイルが生まれるまで

循環の始まりでもある農業との出会いを教えてください

中越 出身は東京の下町で、農業と全く縁のない環境でした。若いときに不動産・金融業の仕事をしていた。当時はとにかくお金を稼ぐことが必要ないろいろな事情がありました。そんな生活を続けていると、お金の価値について考える時間が増える。お金を稼ぐだけでは幸せにはなれない、というのが僕の出した答えです。

その反動からか、何かカタチを残す仕事をしたくて大工になった。千葉で家を購入して、それを壊して直すということもしました。屋内で作業をすることに息苦しさを感じ、仕事の合間に近くの川の土手をランニングするようになり、そこで多くの休耕地休耕田を目にした。それがきっかけで、農地のことを調べはじめた。食料自給率の問題が話題になっていたこととも重なり農業への興味が強くなっていきました。農業を始めるにはどうすればいいか、いろいろと調査、相談をしました。

農業への道はすぐに開けましたか

中越 全然ダメ(笑)。行政に相談しても、農業をあきらめさせるような方向に話がもっていかれているような…。調べれば調べるほど、新規就農への道が閉ざされているように感じた。しかし、そんな状況だからこそやる気に火がついてしまった(笑)。縁があって千葉の有機栽培農場で研修を受けることになりました。

実際の農業の現場はどうでしたか

中越 やっぱり農作業は大変でした。ただ、心地よい汗を流して体を動かすことはとても気持ちがよかった。ご飯もよりおいしく感じる。お客様にも喜んでもらえる。農業は宝の山だと思った。

農業をやっている人は、農業はいつまでたっても1年生だと言う。きちんと手をかけてもうまく育たないこともあるし、多少ほっておいても育つ場合もある。結局、なるようにしかならない。このやり方が正解、という世界ではないと感じた。

それならば、自分のやり方でやればいいんだと。そのやり方を継続するためにお客様が求めていることと、作る側がやりたいことがきちんと実現できる新しい農業スタイルをつくろうと考えました。

千葉から藤沢に移ったのはなぜですか

中越 千葉では会員制の畑の運営、健康野菜を扱うなど、いろいろな工夫をしてきました。ようやく事業として軌道に乗り始めた。しかし、震災が起こってしまった。その当時、その場所では安心安全な野菜が作れなくなった。条件に合う場所を探していく中で、藤沢にたどりつきました。ここでは、有機栽培ではなく自然栽培です。

自然栽培をやろうと決めていたんですか

中越 お店の運営をやっていると栽培にあてる時間が足りなくなってきた。それこそ、肥料をまく時間もない。しかし、肥料を与えない状態でも、いい野菜が作れた。無農薬だから手をかけなければ、という考えは違う。それぞれに適した、自分のスタイルでいい。絶対にこうしないとダメということは無い。

農薬を使わない、肥料を与えなくても、いい野菜ができるならその方がいい。あえて難しくしない、敷居を高くしない。もっと気軽でいい、構えなくていい。藤沢にきてから、そう考えるようになった。もっとシンプルにやっていこうと。

菊芋を藤沢のブランドに

いまは菊芋に力を入れているとお聞きました

中越 藤沢でも、80種類くらいの野菜を栽培していました。しかし、やることが増えてきて手が回らなくなってきた。千葉の畑で栽培していた中に、菊芋がありました。菊芋はそれほど手がかからないので、持ってきていた菊芋の種をつかって畑の隅の方で少し栽培していたんです。

すると、一昨年に中華街の飲食店の人が訪ねてきたんです。菊芋を使ってスイーツを作りたいという相談を受けた。そこから、マーライコウを作るプロジェクトが始まった。結果的に国の農商工等連携計画に認定されました。しかしいろいろな事情があってプロジェクトはストップ。

菊芋の畑 写真提供:駅前直売所八〇八

それなら自社だけやろう、ということになりました。菊芋の本場である長野県ともつながりを持ちながら、企画・加工品作りなどすべて自分たちで行い、今年の4月から販売を開始しました。だから、菊芋の商品化も自分から始めたわけではないんです。話がきて、受けて、循環させていくことを考えた結果なんですね。

菊芋のこれからの展開はどんなことを考えていますか

中越 まずは、神奈川ブランドに認定されること。オリンピックもあるので、さらに海外からの観光客が増えると思います。それまでに、藤沢産ブランドといえる商品を作りたい。菊芋は市場にも流通していないし、この地域でも栽培している人は少ない。より活性化するためには、つくる人を増やす必要がある。

例えば新規就農者に藤沢にきてもらい、菊芋を作ってもらう。それを自社で買い取って加工品にして、販売して藤沢ブランドを広めていきたい。菊芋は世界三大健康野菜と言われるくらい、身体にもいいしダイエット食品にもなります。観光客だけでなく、藤沢の人にも食べてもらって健康になってほしい。藤沢の日常に菊芋がある、という状態にしていきたいですね。これも循環ですよね。

これから農業を考えている人、若い人に伝えたいことはありますか

中越 お金以外の価値が農業にはある。本質的なものがおざなりにされて、バーチャルなのものが脚光をあびる。そこに疑問を感じる。人が生きていく上で一番大切にしなければいけないものは何か、本質的なものを大切にすること。

金融業でお金をかせぐという経験から、農業が持つ本質的な価値に気がついたのかもしれません。お金だけでは幸せを感じられない。いまは、いつ死んでもいいように後悔なく生きることを第一に考えています。僕自身、いまの生活にはまったく疑問がありません。そこは自信を持って言える。

これから就農を考えている人には、いい野菜をつくることだけでなく、それ以外にも大事なことはたくさんあることを理解してほしい。作ったものをいかに売るか、どうやって継続するか。地元の人とのコミュニケーションも大事なことのひとつ。もちろんそういう部分もサポートしていきながら、より多くの人と藤沢で一緒に循環していきたい。

「僕自身、いまの生活にはまったく疑問がありません」中越さんは、特に気負うでもなく照れるでもなく自然な口調でそう言い切りました。おもわず、まぶしいですね、って言ってしまいました。この自然体な生き方に、多くの人が惹かれて集まってくるのだと思いました。自分だけはなく、常に周囲の人、その先のことを見据えて循環を考えている人がいる地域の未来は明るいですね。
取材:2018年07月09日 堀尾タモツ

駅前直売所八〇八
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