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第3回「畑のものは畑にかえす」相原 成行さん

相原 成行(あいはら しげゆき)さんに有機農業についてお話をお聞きするシリーズ第3回。
相原農場のホームページ

前回、見学させていただいたときに、畑の隅に草が積んであったのが気になりました

相原 以前、成田の方にある有機農業の畑を見学にいったときに教えてもらいました。畑で刈った草を同じ畑の一角に、山のように積んでいました。その農場では、草刈り専門のパートの人を雇っていました。時間をかけて肥料にして、畑に戻していくことができたらいいなとは考えていました。

しかし、相原農場では草を刈り取るためだけに人を雇うことは現実的ではなかった。相原農場には援農の人や研修生がいますが、有機農業を理解するための一通りの作業を学んでもらうことが目的です。こちらの都合で、草を刈る作業だけをしてもらうわけにもいかない。そこで、自分たちでできる範囲から始めて、いまの状態になりました。

時間をかけて草を分解することが大切?

相原 自然栽培を実践している人に会ったときに、畑のものと山のものでは分解するスピードが違うと言われたことがあります。畑のスピードにあったものを使う方がよいという意味です。畑で刈った草や野菜残渣を積んで、そのままにしておく。自然の分解のスピードにゆだねて、土になるのを待つのです。ひたすら待って、奥の方からできてきた土を少しずつ取り出し、床土として畑に戻します。

畑の草を刈って積んでいく手間はかかりますが、畑は片付いていく。結果的に作付け作業のスピードアップにもつながります。草をそのまま、うないこんだとしても、畑の土が草を分解してくれる。草が分解するスピードについては、以前に体験したあることが役立っています。

どんな体験ですか?

相原 化学肥料や農薬を使っていて、草一本生えていない畑を借りて農作業をしたことがあります。その畑を耕うんしたとき、土の感じがシャリシャリという冷たい感覚を受けたのです。土の粒子も細かく、見た目もきれい。

でも、その後で自分の畑を耕うんしてみると、ふかふかとした感触があった。あくまでも、耕うん機のロータリーの歯を通して感じた感触の違いなのですが。この感覚の違い、体験がとても印象に残りました。

借りていた畑と粟飯原農場の畑で分解するスピードにも違いがあったのですか?

相原 借りていた畑で収穫が終わった後、残渣も含めてすきこみ、分解するのを待ってみました。残渣の量も少なかったにもかかわらず、分解するまでにかなりの時間がかかりました。自分の畑は、一面緑のような感じで草が生えていても、あっという間に分解してしまうのです。

どの畑でも、冬や夏に分解の時間がかかるのはあたり前ですが、適度に土がしめっていて、気温も適度な状態で同じタイミングで耕うんしても分解のスピードが違ったのです。

その違いはどこからくるのでしょう?

相原 これはあくまでも自分の感覚的なものですが、土壌微生物の数だと思っています。土の中にいる生きものの数によって分解のスピードが変わるのだと考えています。土の中にどれだけの生きものがいるのか。基本的なことですが、有機農業にとって、とても大切なことだと改めて実感することができた。条件の違う畑での体験は、貴重なものになりました。

草も畑にとっては、大事なものになると

相原 これについては別の体験談もあります。「ニンジンから宇宙へ」という本の著者、赤峰 勝人さんに会いにいったことがあります。そこで育てていたほうれん草がとてもおいしかったのです。色は薄い黄緑色で、外の葉は黄色っぽいくらいですが、こんなにおいしいほうれん草は食べたことがない、というくらい衝撃を受けました。

そのとき、草を大事にしていると赤嶺さんが教えてくれたのです。草が野菜を美味しくしてくれるのだ、と。それまでは、畑に種が落ちたら、すぐに外に運びだすのが当たり前でした。しかし、赤嶺さんのほうれん草の味を信じて、草を畑にすきこむ手法に変えたのです。

その後、野菜を買ってくれているお客様が「最近野菜がさらに美味しくなったね」と言ってくださったのです。草をすきこむようにしたことは伝えていなかったので、びっくりしました。それも、はじめて野菜を買ってくれたお客様ではなく、提携購入のお客様でずっと相原農場の野菜を食べてきてくれた方でした。そういうことが実際に起こってしまうと、草をすきこむことには意味があるのだと考える方が自然なことです。

草が味にも影響を与えていると

相原 影響はあると思っています。なぜなら、草も成長のために光合成を行って葉緑素を増やしている。さらに、畑の土から吸収した栄養素も蓄えている。その草を畑の外に出してしまうことは、畑の地力を奪っていることになる。

その場で生み出されたものは、同じ場所に戻す。このようなやり方が、それぞれの持つ力を適材適所に活かすことにつながる。これが相原農場における農場内循環のひとつのカタチだと思います。

農場内循環とはどんな考え方でしょうか?

相原 基本は、畑のものは畑にかえすということですね。動物性のものが必要であれば、数頭の家畜を飼って糞尿を利用する。相原農場にも以前、豚・ヤギ・羊がいました。畑で刈った草を食べさせて、動物の体を通して出てきた糞尿を活用する。

こういう循環は、有畜複合経営という考え方で有機農業の基本的な部分でもあります。畑での栽培バランスもとれるし、経営面でも鶏の卵を売ることで野菜以外の収入も生まれます。栽培面だけでなく、経営も安定させることができる。

これの最たる例が養鶏ですが、地域とのおりあいをどうつけるかという、現実的な問題があるのも事実です。相原農場でも、いまは養鶏はやっていません。いまの時代、豚や鶏を飼うことが難しい。そういう意味では、現在の状態は本来の有畜複合経営というスタイルではありませんが、野菜を作る上でプラスになっている、という状態にはあります。

堆肥も同じような考えで作られているのですか?

相原 有名な有機農業の実践家でもある大平博四さんの言葉に、「有機農業は土作り、土作りは堆肥作り」というものがあります。堆肥の役割は土壌改良。日本の土壌は酸性なので、石灰を使ってphを戻すということが一般的にいわれています。

相原農場では堆肥だけでphの調整ができているので、石灰は使用していません。土壌改良、改善にも堆肥は効力を発揮します。つまり、肥料としての役割よりも土の状態を維持するためのもの、という考え方です。

ここに積まれている堆肥には落ち葉や木などが入っていますね?

相原 堆肥の材料を積みあげて、米ぬかやおからなどを混ぜ合わせます。切り替えしをやって、しっかりと分解が進むように調整します。材料の木はあまり細かくする必要はありません。細かくしすぎると、未分解のまま畑にまいてしまうことがあります。ある程度の大きさを残しておけばカタチで未分解のものを見分けることができる。

細かくなると表面積も大きくなり、土に入ったときの悪影響が大きくなる。多少の大きさのものがそのまま畑に入ったとしてもそれが害になることはありません。やはり、完熟もしくはそれに近い状態にすることが大事です。

地域との連携に支えられている部分もある?

相原 相原農場がある藤沢市宮原は、植木屋さんの数が多いのです。植木屋さんとのつながりがあるので、このような材料・素材に困ることがありません。年末、お盆前後は植木屋さんが忙しい時期なのでそれにあわせて量も増えますが、常に一定量の堆肥がある状態です。

いまは付き合いの長い植木屋さん3軒くらいから、材料を届けてもらっています。木を届けてもらうときに、適正なサイズに調整してもらったりしていますが、この関係性を作り上げるまでには、お互いに試行錯誤してきました。協力してくれる植木屋さんも代々つづく農家です。地域の中で消防団活動などをともおこなってきた仲間でもあります。そういったこともすべて含めて、お互いの信頼関係につながっているのだと思います。この関係性が続く限り、ここの堆肥がなくなることはありません。

「必要なもの」を遠くから取り寄せる。この行為自体にコストやエネルギーがかかっている。つまり、どこかに無理があるということ。自分たちの手が届く範囲で、「必要なもの」を集めて、うまく使うこと。相原農場が目指している有機農業の一番基本にある考えですね。農場内循環、地域内循環を継続してきたいと思っています。

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